経済産業省のDXレポートが発表されて以降、企業のデジタル化の必要性が注目されています。そんななか、デジタル化は情報システム部門の仕事だと思っている中小企業の経営層もいるようです。しかし、デジタル化を実現するためには、経営層が高い意識や情熱を持っていなければなりません。
ここでは、中小企業のデジタル化はなぜ必要なのか、なぜデジタル化が進まないのか、デジタル化にはどのような効果があるのかなどを説明します。
※デジタル化には、デジタイゼーション(アナログデータのデジタルデータ化)、デジタライゼーション(業務・製造プロセスのデジタル化)、DX(全体業務・製造プロセスのデジタル化、ビジネスモデルの変革)の3段階があります。今回は、中小企業のデジタライゼーションの進め方について考えます。
中小企業のデジタル化は本当に進んでいないのか
国をあげてデジタル化が推進されていますが、企業の規模によってデジタル化の進捗状況に違いはあるのでしょうか?
独立行政法人情報処理推進機構が2020年5月14日に発表した「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」の結果を見てみましょう。同調査によると、DXの取り組み状況について、DXに取り組んでいると回答した企業の割合は、従業員数別で下記のようになります。
DX に取り組んでいる割合が、従業員数1,001名以上の企業ではほぼ8割近くなのに対し、従業員数300名以下の企業では4割にも満たない結果でした。大企業に比べて、中小企業のデジタル化が進んでいないことがわかります。
参照:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査P.8(PDF)|独立行政法人情報処理推進機構
なお、DXは、ここでいうデジタル化、つまりデジタライゼーションとは定義が異なりますが、DXを進めるにはデジタライゼーションが不可欠です。そのため、この調査結果は、デジタライゼーションに当てはめて考えても大きな相違はないといえます。
中小企業のデジタル化はなぜ必要なのか
近年、消費者のニーズが多様化し、その変化のスピードも速くなっています。また、業種や企業規模を問わずビジネスのグローバル化が進んでおり、競合は国内だけにとどまりません。
このような厳しい環境下において、企業は迅速に対応して熾烈(しれつ)な競争を勝ち抜いていかなければなりません。それには、これまでのアナログな方法では限界があります。デジタル技術を活用して速やかに、ときには劇的に変化することができなければ、競争力低下は避けられないでしょう。
企業の規模を問わずデジタル化は不可欠といえます。また、デジタル技術を駆使することで、新しい価値創造につながることが期待できるため、中小企業にとっては飛躍のチャンスともいえるのです。
詳しくは、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
なぜ中小企業ではデジタル化が進まないのか
中小企業でデジタル化が進まない理由には次のようなことが考えられます。
- 経営層の意識が希薄
デジタル化の重要性が叫ばれていることは察知していても、現時点では事業運営に支障がないからと、積極的にデジタル化を進める意欲のない経営層もいます。あるいは、必要性は感じていても、忙しい業務だけ効率化ができればいい、情報システム部門やベンダーに任せていれば問題ないという認識の経営層も存在します。しかし、デジタル化はひとつの部門にとどまらず、全社的に進めなければならない取り組みです。経営者層の高い意識がなければ進めることはできないのです。
- デジタル化やDXについて正しく理解されていない
そもそも経営者層、従業員ともに、デジタル化やDXについて正しく理解できていないケースが見られます。例えば、デジタル化やDXを大企業やIT関連業界だけの取り組みと思い込んでいたり、最先端のIT機器を(運用する目的というより)「導入すること」ととらえていたりするケースです。あるいは、業務負担が大きい一部署、一部門に取り入れて業務効率化を図ることでデジタル化の完了ととらえているケースもあります。誤った認識では、適切にデジタル化を進めることは不可能です。
- デジタル化を推進する人材がいない
デジタル化を推進する人材の不足は、企業の規模を問わず大きな課題ですが、中小企業ではさらに深刻です。デジタル化を進められる人材がいないだけでなく、育成する余裕もありません。デジタル化についてリテラシーがあるIT部門は常にリソース不足です。人材不足が原因で、デジタル化が進められない企業は少なくありません。
中小企業がデジタル化を進めるためには何が必要か
このような状況でデジタル化を進めるには、次のような対策が必要です。
- 経営層が意識を高めトップダウンの改革が必要
デジタル化は一部門、一部署で終わらせるものではなく、全社的、横断的に進めなければならない取り組みです。情報システム部門任せにせず、経営層が主導で進めていかなければなりません。デジタイゼーション、デジタライゼーションと、その先にあるDXは、企業全体にかかわる施策であり、コスト面や従業員の意識にも大きく関係します。デジタル化を経営戦略のひとつに組み込み、経営層が率先してトップダウンで改革を行ってはじめて、スムーズに改革を進めることが期待できるのです。経営層の主導で進めることにより、部署間のトラブルも防ぐことが可能でしょう。経営層の意識が高まれば、経営層と従業員との距離が近い中小企業のほうがデジタル化を進めやすいかもしれません。
- 全社的な意識改革を図る
一部の業務をデジタル化するだけでは、その先にあるDXにつながっていきません。まずは、経営者層がデジタル化、DXの重要性をしっかり理解する必要があります。これまでのやり方に固執せず、意識を変えていかなければなりません。なかには、デジタル化に漠然と抵抗を感じる従業員もいるでしょう。従業員に対して、デジタル化、DXの重要性を周知し、正しい知識を身に付けさせることが大切です。
- デジタル人材を確保する
デジタル化を行うには、社内のデジタル化をけん引し、システムを構築できるような人材を十分に確保しなければなりません。外部からの採用と社内での育成を併用し、人材の確保に努めます。しかし、労働人口全体の減少、なかでもデジタル化に対応できる人材の不足は深刻なため、簡単には確保できないのも事実でしょう。デジタル人材の確保には、長期的な戦略と計画が必要です。
中小企業でのDX推進に関しては、「中小企業でDXを推進するには?現状や成功させるためのポイント」でも解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
デジタル化は企業にとってどのような効果があるのか
企業がデジタル化を進めると、次のような効果が見込めます。
- 業務の効率化
デジタルツールを利用することで、業務の効率化につながります。
- 顧客への新しい価値・顧客体験の提供
デジタル化をもとに新しい製品やサービス、ビジネスモデルを実現し、新しい価値や顧客体験を生み出すことが期待できます。
- DXの準備
DXをスムーズに推進するための下地ができます。
このほかデジタル化の効果について詳しくは、「デジタライゼーションとは?効果や業種別の具体例と推進のステップ」もご覧ください。
企業のデジタル化を成功させるには経営者の意識が重要
現在大きく変化しているビジネス環境に対応するためには、デジタライゼーション、ひいてはDXの推進が必須です。変化に対応できない企業は、2025年の崖の後では競争力が低下し、生き残ることが難しくなるでしょう。
例えば、同じ商品を取り扱っていて、条件がすべて同じ企業が2社あり、1社はデジタル化済みでもう1社はデジタル化されていないとします。この場合、プロセスがすべてデジタル化され、その場で在庫確認ができる企業と、デジタル化されていないため確認に時間を要する企業とでは、顧客はどちらに発注するでしょう? 答えは明白です。
厳しいビジネス環境の変化に適応して生き抜くためには、中小企業といえどもデジタル化の実現は急務です。そのためには、トップダウンでスムーズに改革を進められるよう、まずは経営層の意識を変えていく必要があるでしょう。
中小企業のDX推進に関しては、以下のセミナー動画もご参照ください。
DXを推進に向けての体制づくりや進め方、効果などを実際の事例とともに解説しています。
【セミナー動画・資料公開】中堅企業DX導入事例ーDX適用シーン、PDCA、推進体制について